原村役場では、業務マニュアルや引継ぎ書、議事録などの庁内情報を一元管理するナレッジ共有基盤「haraDocs(ハラドックス)」を整備しました。職員が必要な情報を探しやすくし、今後のAI活用にもつなげる取り組みです。
この記事のポイント
- 引継ぎ書、業務マニュアル、議事録などの庁内情報を一か所に集約します。
- 本文検索やURL共有により、必要な情報を探す時間を減らします。
- 蓄積した情報をコモンズAIと連携し、検索・要約・文案作成の支援につなげます。
haraDocsは、引継ぎ書、業務マニュアル、議事録、議会答弁作成時の参考情報、システム利用手順など、庁内で共有可能な業務情報を蓄積する仕組みです。これまで各課や担当者ごとに分散しがちだった情報を一か所に集めることで、職員が必要な情報にすばやくたどり着ける環境を目指しています。
本取り組みは、原村役場における業務効率化のための試みであると同時に、他の自治体でも参考にしやすい再現性のある取り組みです。
庁内情報を集約するharaDocs
haraDocsは、庁内ネットワーク内で運用しているナレッジ共有システムです。既存のCMS技術を活用し、庁内で安全に運用できるよう構築しています。
単なる文書保管場所ではなく、記事形式で情報を整理し、カテゴリ、検索、目次、URL共有などの機能を活用できる点が特徴です。
掲載する情報の例は、次のとおりです。
- 各業務の引継ぎ書
- 業務マニュアル
- 会議・庁議等の議事録
- 議会答弁作成時に参照する情報
- システムやサービスの利用手順
- 各課で共有したい内部資料
- よくある問い合わせや対応方法
カテゴリ画面と記事一覧画面を組み合わせることで、情報の種類や更新状況を確認しながら探せるようにしています。
情報を探す時間を減らすために
自治体業務では、制度、手続き、過去の経緯、関係資料など、多くの情報を確認しながら仕事を進めます。一方で、情報が共有フォルダ、紙資料、メール、個人のメモ、過去のWord・PDFファイルなどに分散していると、「どこに情報があるのか分からない」「担当者に聞かないと分からない」といった状況が起こりやすくなります。
haraDocsは、この「情報を探す時間」を減らすことを大きな目的としています。
情報を探す時間が減れば、職員は本来取り組むべき判断、調整、住民対応、企画立案などにより多くの時間を使うことができます。結果として、庁内業務の効率化だけでなく、住民サービスの向上にもつながると考えています。
haraDocsの主な特徴
1. 本文まで検索できる
ポイント:ファイル名だけでなく、本文中の言葉から必要な情報を探せます。
従来のファイルサーバー中心の管理では、ファイル名は分かっていても、文書の中身まで横断的に探すことが難しい場合があります。haraDocsでは、記事本文を対象にキーワード検索ができるため、必要な情報にたどり着きやすくなります。
たとえば「haraDocs」と検索すると、図5のように、タイトルだけでなく本文中に「haraDocs」という言葉を含む記事も検索結果に表示されます。
検索結果の一覧から記事をクリックすると、図6のように記事本文が開き、本文中の検索キーワード付近まで移動します。長い業務記事でも、検索語が使われている箇所を探し直す手間を減らし、必要な情報をすばやく確認できます。
2. 記事として見やすく整理できる
ポイント:見出しや目次を使い、長い業務情報でも必要な箇所へ移動しやすくします。
haraDocsでは、業務情報をWebページのように表示できます。見出しを設定すると目次が自動で作成され、長い記事でも必要な場所へ移動しやすくなります。
WordやPDFをそのまま共有するだけではなく、記事として整理することで、読みやすさ、探しやすさ、更新しやすさが高まります。
3. URL共有で、常に最新情報を見られる
ポイント:同じURLで最新情報を確認できるため、古いファイルの参照を防ぎやすくなります。
WordやPDFをメールなどで送付すると、修正後に古いファイルが残ったり、どれが最新版か分からなくなったりすることがあります。
haraDocsでは、記事のURLを共有すれば、後から内容を修正しても同じURLで最新の情報を確認できます。業務内容の変更、制度改正、手続きの見直しなどがあった場合も、記事を更新することで、関係する職員が最新情報にアクセスできます。
4. 課を越えた情報共有がしやすい
ポイント:担当者や課に閉じがちな知識を、庁内全体で参照しやすくします。
引継ぎ書や業務マニュアルをオープンにすることで、他の課や係の職員も「どの業務で、何をしているのか」を把握しやすくなります。
自治体業務では、担当者や課ごとに知識が閉じてしまうと、似たような作業を重複して行ったり、過去の経緯を探すのに時間がかかったりします。haraDocsに情報を集約することで、縦割りや属人化を減らし、庁内全体で知識を活用しやすくなります。
5. 既存資料から移行しやすい
ポイント:既存のWord資料やマニュアルを活かしながら、段階的に記事化できます。
これまでWordなどで作成してきた引継ぎ書やマニュアルも、Markdown形式などに変換してharaDocsへ移行できます。既存資料を活かしながら段階的に整備できるため、最初からすべてを作り直す必要はありません。
また、業務上必要な既存のファイルサーバー上の資料についても、記事から参照しやすい形にすることで、haraDocsを業務の入口として活用できます。
6. AIでプラグインを作成し、機能改善しやすい
ポイント:WordPressのプラグインをAIで作成することで、庁内の使い方に合わせた機能改善を行いやすくなります。
haraDocsはWordPressを活用しているため、プラグインによって機能を追加しやすい点も特徴です。原村役場では、AIを使ってWordPressプラグインを作成し、庁内業務に合わせた複数の機能追加を行っています。
一例として、記事本文に記載された庁内共有フォルダのパスをクリックすると、その場所をエクスプローラーで開けるようにするプラグインを作成しました。共有フォルダの場所をコピーして貼り付け直す手間を減らし、記事から必要な資料へ移動しやすくしています。
AI連携で広がる活用
AI連携のポイント
haraDocsに蓄積した庁内情報を、コモンズAIが参照できるようにすることで、検索、要約、文案作成を支援できます。AIの回答は職員が内容を確認し、最終的な判断や文書作成は職員が行います。
haraDocsの大きな可能性は、生成AIとの連携にあります。
原村役場では、庁内で利用している生成AIサービス「コモンズAI」と連携し、haraDocsに蓄積した情報をAIが参照できるようにする取り組みも進めています。
具体的には、haraDocsからコモンズAIへ庁内情報を渡すために、専用のWordPressプラグインを開発しています。このプラグインで、haraDocsに登録されたすべての記事をMarkdown形式でエクスポートします。
haraDocsからコモンズAIへデータを渡す流れ
- haraDocsで開発したプラグインを使い、すべての記事をMarkdown形式で出力します。
- 1記事を1ファイルとして出力し、RAGが記事単位で内容を認識しやすい形にします。
- 見出しや本文構造をMarkdownに反映し、AIが参照しやすい文書データとして整えます。
- 出力したMarkdownファイルをCodexで整理し、コモンズAIへ登録します。
RAGとは、登録済みの文書を検索し、その内容をもとにAIが回答を作成する仕組みです。1記事1ファイルで登録することで、どの記事のどの内容を参照しているのかを扱いやすくし、庁内情報をもとにした回答につなげやすくしています。
これにより、職員はAIに対して自然な文章で質問できます。
たとえば、次のような活用が考えられます。
- 「この業務の手順を要約して」
- 「過去の議事録で関連する内容を探して」
- 「この制度の注意点を整理して」
- 「引継ぎ書をもとに、担当者向けの説明文を作って」
- 「庁内資料を踏まえて、文書案を作成して」
以下は、haraDocsの情報をコモンズAIに登録し、庁内情報をもとに回答する流れの例です。
haraDocsを「庁内の知識」、コモンズAIを「庁内情報を活用するための支援機能」として組み合わせることで、単なる検索システムを超えた業務支援基盤になります。
職員がAIに質問すると、一般的な情報だけではなく、原村役場で蓄積してきた業務情報をもとに回答を得られるようになります。つまり、庁内の知識をAIで活用できる状態に近づいていくということです。
図15は、haraDocsに蓄積した庁内情報をコモンズAIが参照し、職員が業務に活用する全体像を示したものです。
他自治体でも参考にしやすい再現性
haraDocsの取り組みは、原村だけの特別な仕組みにとどまりません。多くの自治体で参考にできる要素があります。
再現性がある理由は、次の点にあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 既存技術の活用 | WordPressなど既存技術を活用 |
| 段階的な導入 | 引継ぎ書やマニュアルなど身近な資料から開始 |
| 職員が更新できる | 担当職員が自分の業務情報を更新可能 |
| URL共有が可能 | 最新情報を一つのページで共有 |
| AI連携が可能 | Markdown形式で出力し、RAG登録により生成AIと連携 |
| 小規模自治体にも適用しやすい | 大規模な専用システムでなくても構築・運用しやすい |
特に重要なのは、システムを作ることだけではなく、職員が継続して情報を登録・更新する運用をつくることです。原村役場では、各職員が自分の担当業務をharaDocsに登録し、必要に応じて更新していくことを重視しています。
最初は新しい習慣を定着させる必要がありますが、一度情報が蓄積され始めると、検索性が向上し、引継ぎがしやすくなり、庁内全体の知識活用が進みます。
知識を共有し、業務に活かす基盤へ
haraDocsが目指しているのは、単に文書を保存することではありません。
目指しているのは、原村役場の業務知識を一元的に蓄積し、誰もが必要なときにすぐ活用できる状態をつくることです。
これにより、次のような効果が期待できます。
- 情報を探す時間の削減
- 業務の属人化の解消
- 引継ぎの効率化
- 課を越えた情報共有
- 業務マニュアルや手順書の更新性向上
- 職員のAI活用の促進
- 庁内知識を活かした文書作成・調査・要約の効率化
haraDocsとAIを組み合わせることで、原村役場に蓄積された知識を、より実践的に業務へ活かすことができます。
今後について
原村役場では、今後もharaDocsへの情報登録と更新を進め、庁内の知識をより活用しやすい形に整備していきます。
また、生成AIとの連携も進めることで、職員が必要な情報を探すだけでなく、情報をもとに考え、整理し、文書を作成するところまで支援できる環境を目指します。
今後は、庁内マニュアルの整備、AI検索対象の拡充、職員が継続して使いやすい運用ルールづくりを進めていきます。
まとめ
haraDocsは、知識共有とAI活用をつなぐ庁内基盤です。まずは情報を蓄積し、次にAIで活用する流れを育てることで、自治体業務の効率化や住民サービス向上につなげていきます。
