原村役場では、2025年7月〜8月にかけて、全職員を対象とした研修・実践型イベント「HARA AI CHALLENGE(HAC)」を開催しました。生成AIやDXツール(logoフォーム、Excel ほか)に関する専門家講義と、チーム制ワークショップを通じて、業務の高度化・効率化につながる具体的なソリューションの創出に取り組みました。優れた案件は表彰のうえ、正式案件化も視野に検討を進めます。
開催概要
主旨: 生成AI・DXツールの活用を通じて、原村の行政サービスと庁内業務を高度化・効率化する。
進行: 講義 → ワークショップ(課題抽出→解決策設計→試作)。
- Day1(7/4 金):自治体の生成AI活用と原村での応用/講師:シフトプラス(AI Zevo)石本 氏
- Day2(7/10 木):議事録生成AIの活用/講師:時空テクノロジーズ(ログミーツ)髙橋 氏
- Day3(7/25 金):自治体の電子申請活用/講師:トラストバンク(logoフォーム)飯島 氏・魚谷 氏
- Day4(8/1 金):地元企業の活用事例/講師:八十二銀行 DX部 山岸 氏
運営: 原村生成AIアドバイザー 山田 氏の主導のもと、事務局が全体進行を担当。
山田智久さん
2025年1月より長野県原村 生成系AIアドバイザーに就任
著書「生成AIが資産運用を変える」
当日の様子
Day1(7/4 金)生成AI活用の基本と原村での可能性
講義
本庁講堂で実施。シフトプラスの石本氏より、日頃業務で利用している「AI Zevo」の活用ポイントやプロンプト設計の勘所を学び、まず試す・小さく始める姿勢の大切さを共有しました。
ワークショップ
業務上の悩み・課題を幅広くブレインストーミング。初参加の職員も多い中、活発に意見が出され、時間を超えて議論が白熱しました。
Day2(7/10 木)議事録生成AIの実践
講義
会場を中央公民館講堂へ。時空テクノロジーズの髙橋氏より、AI文字起こしツール「ログミーツ」の操作と、議事録以外の活用例(要約やタスク抽出など)を学びました。
ワークショップ
Day1で抽出した課題を各自で絞り込み、似たもの同士でグルーピング。解決策をグループで検討し、実現性の高いアイデアへブラッシュアップしました。
Day3(7/25 金)電子申請(logoフォーム)で“形にする”
講義
会場は原村福祉センターホール。トラストバンクの飯島氏・魚谷氏から、logoフォームの自治体実例と設計の勘所を解説。原村でもスマホで完結できる手続きが100件以上に拡大しており、さらなる応用を検討しました。
ワークショップ
Day2で定めた課題に対する「解決ツール」を具体的に作り始めました。サポートメンバーが各班に入り、ツール選定・必要データの整理・画面設計を支援。チームにより進捗の差はありましたが、全体として順調に前進しました。
Day4(8/1 金)最終仕上げと共有
講義
八十二銀行の山岸氏より、銀行内での生成AI導入の成功例と課題、運用上の工夫を具体的に共有いただきました。
ワークショップ
試作の完成度を高める最終フェーズ。当初ゴールは「設計図作成」でしたが、各チームの頑張りにより、実際に使えるツール(またはそれに近い形)まで到達しました。終了後は八ヶ岳自然文化園にあるカフェ[K]にて懇親会を行い大いに盛り上がりました。
成果物(プロジェクト)
1. 引継仙人(ひきつぎせんにん)
- 概要: 各課の引継書を集約しフォーマット統一。過去の引継書をAIが読み取り、不足点を対話でヒアリング→補完→完成。タスクの実行時期をチャット通知し、新業務の追加にも対応。
- 特徴: 財務規則や全庁共通の届出など、問い合わせ頻度の高い内容を自動回答。
- 期待効果: 属人化の解消、引継品質の均一化、繁忙期の漏れ防止。
2. YamenAI(やめない)
- 概要: 業務の困りごとや口伝ルールなど暗黙知をAIが回答する庁内チャットボット。新任職員でもベテランのノウハウに即アクセス。
- 期待効果: 質問の心理的ハードル低減、迅速・的確な情報提供、OJT負担の軽減、離職防止。
3. 業務可視化システム
- 課題認識: ①業務の見える化不十分 ②公平性の担保が難しい。
- 方針: まず業務量の統一的な可視化・定量化を実施し、その後インセンティブ導入を検討。
- アプローチ: 引継書のフォーム化・システム化、入力負担を軽減するチャットボット、複数年・複数人のデータ収集、kintone/Microsoft 365等による定量化。
4. 体育館オンライン施設予約・決済フォーム
- 背景: 紙・電話中心の受付で手間・ミス・重複が発生。高齢者利用も多く分かりやすい電子申請が必要。
- 目的: 受付業務の効率化、利用者利便性向上、料金徴収の正確性確保。
- 内容: logoフォームを活用し、予約〜決済までオンラインで完結する仕組みを構築。
5. 障害児学童クラブの決済フォーム
- 背景: 書面や振込用紙による支払いで、職員・利用者双方の負担が大きい。
- 内容: 電子申請・オンライン決済へ移行し、申請〜支払いまでの負担軽減と誤り防止を図る。
審査・表彰(2025年9月10日)
HAC最終審査では、すべての案件が受賞しました。村長賞の2チームは会場でプレゼンテーションを行いました。
- 村長賞(各50,000円): 引継仙人 / YamenAI
- 優秀賞(各30,000円): 体育館オンライン施設予約・決済フォーム / 業務可視化システム
- 奨励賞(10,000円): 障害児学童クラブの決済フォーム
採点結果(総合点)
案件名 | 総合点 | 受賞 |
引継仙人 | 4515.5 | 村長賞 50,000円 |
YamenAI | 4410.5 | 村長賞 50,000円 |
体育館オンライン施設予約・決済フォーム | 3529 | 優秀賞 30,000円 |
業務可視化システム | 3497.5 | 優秀賞 30,000円 |
障害児学童クラブの決済フォーム | 2932 | 奨励賞 10,000円 |
参加職員の主な学び
- 生成AIを使いこなすための設計・検証手順(プロンプト設計、評価、改善サイクル)
- 電子申請・データベース連携による業務の見える化と入力負担の最小化
- 小さく作って試す→改善するという実装プロセスの体得
今後の展開
- 村長賞・優秀賞案件は、実運用へ向けた検証(PoC)を順次実施
- 庁内での横展開(様式統一・ルール整備・FAQ整備)を進め、住民サービス向上に還元
- 生成AI・DXのスキル習得機会を継続的に提供
まとめ
HACを通して、庁内の課題を洗い出し、生成AIと既存ツールを組み合わせた実務に直結する仕組みを形にできました。庁内外からの注目も高まり、職員のDXへの意欲向上、ツールスキルの底上げという効果が得られています。今後も、住民サービスの質向上につながる取組を継続してまいります。